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藤田紘一郎さん

今回のゲストは、東京医科歯科大学名誉教授、人間総合科学大学教授の藤田紘一郎さんです。

医学博士である藤田さんの専門は、寄生虫学、感染免疫学、熱帯医学と免疫学のスペシャリストです。著書『笑うカイチュウ―寄生虫博士奮闘記』(講談社)は、とても売れた本です。その内容は誰も考え付かなかった寄生虫がアレルギーを抑えるという事を面白おかしく語っています。その他多数の著書をお書きになられています。
今回はその中でも『こころの免疫学』(新潮選書)を取り上げ、お話を伺います。この本には、心の問題が重要視されている現代に対する大きなヒントと答えを私たちに与えてくれています。
まず、寄生虫が私たちのアレルギーを抑えるという事は今まで誰も考える事がありませんでした。アメリカの科学雑誌サイエンスに50歳の頃に、寄生虫の分泌液の中の2万のたんぱく質が免疫細胞のどこに入って抑えているかという内容の論文が掲載され、ヨーロッパ、アメリカで非常に有名になりました。これは科学的に根拠のある話なのです。しかし、日本では全くと言っていいほど相手にされませんでした。国内の医学雑誌でこの内容が掲載されることはなかったのです。寄生虫がアレルギーを抑えるなんて馬鹿なことを言っていると言われたものです。
私自身はこの事を見つけた時は非常にうれしく喜びました。寄生虫は体内入ると寄生虫自身は遺物として攻撃をされます。しかし、その攻撃を抑制する働きをするのです。そして、人の体が外から受ける攻撃に対しては人の体の免疫を上げて対処しています。寄生虫自身は攻撃をかいくぐって人の体の中でぬくぬくと暮らしているのです。これは大きな発見でした。
この発見を派生させて、寄生虫から分泌される物質を取り出してアレルギーの抑制ができるものかと実験を行いました。しかし、マウスでの実験結果は寄生虫が体内で起こす反応と同じにはならなかったのです。そのため薬としての利用はできませんでした。寄生虫は体にとって良い働きをしてくれているのです。
これらの研究は日本では偏見を持たれました。しかし、調べていくとアレルギーを抑えているのは寄生虫だけではなく細菌もアレルギーを抑えている事が分かったのです。私はこの事を20年前から言っています。ようやく最近になって外国から衛生仮説が出てきました。私が言っていた方向へと目が向けられるようになったのです。
その他には、免役は笑ったり生きがいを持ったりしていると上がります。心の在り方が30%も影響しているのです。
日本ではうつ病患者が急激に増えました。病院数も増えいたるところに精神科の病院ができてきているように思います。しかし、このような現象は日本特有のようです。世界では様々なストレスがあり多くの人がうつ病となり薬を飲んでいると思っていました。しかし、海外はそんなことはないのです。日本では薬を飲んでいる人が多く、精神の患者や精神病院が増えているのは日本だけです。逆にイタリアでは公立の精神科がなくなっています。精神の病の対処法は薬ではなく、コミュニティーであるという考え方を持っているのです。コミュニティー社会を構築し直してそこでコミュニケーションを取れる環境をつくることを推奨しています。精神病の患者を野放しにすると危険というイメージが日本にはあります。しかし、イタリアではそのようなことはありません。その事実を踏まえると病気を作っているのは医者という事も一理あるのです。
では、腸内細菌が心に与える影響とはどのようなことがあるでしょうか。一例をあげると、暴れん坊の豚に乳酸菌を与えたらおとなしくなるという実験結果があります。これを調べてみると人懐っこくなる物質を乳酸菌が送っている可能性があることが分かった。セロトニンというと脳の物質というイメージがありますが、セロトニンは98%が腸に行き、脳へ到達するのは全体の2%である。ドーパミンやセロトニンは腸内細菌の伝達物質でした。もう一つ例を紹介します。ヒトはミミズの変化形です。口から肛門まで一つの管であるミミズは私たちの内臓と同じです。ちなみに生物の歴史をみると脳は後からできたものでセロトニン側からすると腸にあったものを脳にもお裾分けをしてあげたという事が言えます。その頂いた2%のセロトニンなどが少なくなると鬱などになってしまうのです。セロトニンなどが98%も腸にあるという事は、腸環境が健康であればセロトニンが大量にあり、脳にもしっかり送られることになります。しかし、腸環境が不健康でありセロトニンの量がすくなければ、脳に送られるセロトニンも必然的に少なくなってしまうのです。これがなぜ暴れん坊の豚が腸を整える事で穏やかになったのかという説明です。
昔は、花粉症という病気もありませんでした。花粉症の第一例は1963年です。人間は雑食動物であるから雑食という意味ではいろいろものを食べる事ができます。多少の細菌を食べても処理する力があるのです。それが人間のたくましさです。ただ、人間は生物の一員であり、人間だけが特別であると考えると間違えが生じてきます。
例えば、動物の赤ちゃんは生まれてすぐ自然環境の中で生きていかなければなりません。無菌室ではなく細菌がいっぱいいる中で成長していくのです。パンダは生まれてすぐに土を食べて免疫力をつけるなどの動きをします。人間の赤ちゃんもいろんなものをなめようとします。それが自然の流れです。ただ、人間の異なる所は、早産で生まれてくることです。馬などは生まれてからすぐに立とうとするけど、人間は歩くまでに1年ぐらいかかります。それは、一年経つと頭が大きくなりすぎて母体から生まれてくることができないためです。母体の中での生まれてくるまでの間は、生物の歴史を繰り返しているのです。そして、生まれた時の腸管は無菌で生まれてきます。菌への免疫をつけるためには悪い菌を入れる事が必要です。それにより免疫を上げる事ができるのです。赤ちゃんがいろいろなところをなめるのは、よい腸内細菌を創ることができる必須条件でもあります。
話はそれますが藤田さんは世界中の便を10万個近く取っています。便が大きい国は自殺者の数も少ないという事がデータより推測できます。これも腸内細菌が影響しているのです。日本人の便は縮小化しています。薬を飲めば飲むほど腸内環境は悪くなるという悪循環に多くの心の病を抱えている人ははまっているのです。
赤ちゃんの話に戻します。赤ちゃんの腸内環境を良くするためにはどうしたらいいでしょうか。まず、母乳で育つと腸内細菌がよくなります。早めに離乳をしてしまうと最適でない腸内環境ができあがってしまい。その影響が脳の発達に関係してくるのです。マウスの実験で穏やかなマウスの腸内細菌をなくすと凶暴化します。すぐに腸内細菌を体内に戻してあげると再び穏やかな性格に戻ります。しかし、時間が経ってから戻しても凶暴化が収まることはなかったのです。それほど腸内環境が脳であり心に与える影響は大きいのです。
これより、食生活の大切さが分かってくることでしょう。昔ながらの御袋の味と言われる食事は腸内環境を整えるためには最適です。腸内環境も温かい方が腸内細菌が活性化します。私たちの社会が免疫・鬱に関して受動的であり、自分で何とかできるという考えがあまりありません。しかし、この本を本でいただいて笑う事も食べる事も台所を薬膳だと思って心をコントロールできるという自信を持ってもらいたいと思います。