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塚原邦夫さん

ゲスト:塚原邦夫
足立区教育委員会学務課おいしい給食担当係長

■ゲストプロフィール

 足立区では「生きた教材」として、児童・生徒が食を学び、自から食べたくなり、思い出に残る「おいしい給食」を、学校、保護者、調理業者、農家等とともにめざしているのがおいしい給食の取り組みです。「日本一おいしい給食」を掲げて、各学校の栄養士が作るおいしい給食レシピを基に、家庭用にアレンジしたレシピ本『日本一おいしい給食をめざしている 東京・足立区の給食室~毎日食べたい12栄養素バランスごはん~』は、現在7万7千部を売り上げるベストセラーとなっています。

 今回のゲストは塚原邦夫さんです。
  『日本一おいしい給食を目指している 東京・足立区の給食室 毎日食べたい12栄養素バランスごはん』は、とてもおいしいと評判となっている給食の献立を取り上げた面白い本です。カラーでとても見やすい本となっています。
  この本を出す経緯は、出版社の方が低カロリー、栄養バランスの摂れた料理として学校給食を取り上げ、足立区のおいしい給食のHPを見てくれたことで23年1月にレシピ本を出したいという依頼がありました。今まで学校給食はスポットライトが当たらない存在であり、その内容は家族でもあまり知られていない存在です。
  学校給食の過去を振り返ってみると問題もありました。おいしい給食の担当になって驚いたことは、担当者の塚原さんの思い出の中では鯨の竜田揚げとかだったものが、今はさんまの蒲焼丼やカレーがご飯の上にかかっていたり、夏野菜カレーなどバラエティに飛んだメニューとなっています。先割れスプーンだったものがお箸を使用するようになり、器も磁器陶器の器を使って見た目にも気を使っているのです。これにより、扱いが悪いと割れてしまうが、器の温もりや家庭の温かさも感じられるようになっています。給食自体では、マナーも重要視しています。ご飯は左に置くなどの配膳にも気を使っています。
  この本を見ての第一印象は、一食に対して多くの野菜を使用していることでした。第二は、主食がパンではなく、ご飯が多いことが菅原の給食時代と異なっていると感じました。塚原さんによると、足立区の場合は週に3回ご飯が出ます。麺類やパンは10日に一回という基準を設けて出しています。ご飯を食べるという事によって、子供のご飯離れからご飯を好きになるというのは良い方向へ向かうと思うのです。ごはん主体の学校給食は日本全国で行われているのでしょうか。昭和50年代にごはん給食がはじまり、その頃から給食のメニューが大きく変わりました。最近は、朝食を食べない子供が増えています。子供たちの学級崩壊も朝ごはんを食べなくて血糖値が下がりすぎているため、学校に来ても集中力がなかったりする事が原因の一つではないでしょうか。その一方で、学会などで発表されたりしているが、給食が美味しくて楽しくて栄養バランスがいいと、偏食に対して良い影響が子供にある。というものです。足立区では、学級崩壊的な話はあるのでしょうか。
  おいしい給食と子供たちの生活態度・生活環境の調査はしていないそうです。しかし、足立区の家系は共稼ぎの家庭が多く、朝ごはんを食べてこないという子供もいるので、学校給食の占める割合はかなり高いのではないでしょうか。食べるという事は幸せに直結しているため、毎食のメニューが栄養バランスがよく、品数が多い、一つ一つのメニューがしっかりと構成されている学校給食が子供に与えるいい影響は多い事でしょう。
  ある日のメニューを見てみましょう。レバーの揚げ物と噛むサラダという面白いメニューがあります。噛むサラダには、スルメイカが入っています。スルメイカ、キリボシダイコン、ニンジンの千切りが入ったサラダです。このカムカムサラダというのは初めて見ました。とてもユニークですごくおいしそうなサラダです。そして、ジャガイモの具沢山味噌汁や主食が枝豆じゃこご飯となっていました。じゃこご飯は最近はやっていますが、それに枝豆が入っていて彩が考えられている逸品です。そして、内臓の中でもレバーは少し臭みがあり子供が嫌いなメニューでもあると思います。しかし、それを残食なしで食べさせるというのは、栄養士や調理師の工夫です。
  子供たちが苦手なものは、豆類であったり、小魚であったり、野菜であったりしますが、それを栄養士は子供たちが好きな味つけに混ぜながら食べてもらうような工夫を凝らしているのです。これは家庭でもヒントを頂きたい特性ソースと言うのもあります。凝ったタレで絡めてあるのは、子供の好きな味になっているだろうし、家庭で使用しても高評価を得られそうなものです。
  よく学校の方に、自宅では野菜を食べないけど、学校では食べてくるという話があります。保護者の方からどのように作っているのかと聞かれることがあるのです。まさに栄養士がタレであったり、ドレッシングであったりと工夫を凝らしている証です。
  足立区の小学校は71校、中学校が37校と100校を超す学校があります。その各学校に栄養士がいます。ベテランの栄養士の知恵を共有し合いながら子供が食べやすいレシピを作成しているのです。献立検討会を栄養士主体で集まり会議をしています。そこで、若い栄養士が作った献立、食材の組み合わせなどに意見を出し合いながら子供が食べやすい献立を作っているのです。
  若い栄養士が作る献立とベテランの栄養士が作る献立では差があるのでしょうか。
  学校給食は食品構成や摂取基準として国が定める基準があります。栄養士はその基準に近づけるように食品を組み合わせて作っています。その中で大切にしていることは、みなさん日本食を大事にしているのです。子供は洋食が好きと言う傾向があるが、やっぱり日本の味を子供たちに伝えたいという意識があります。日本食を重視しながらいろいろなものを子供たちに食してほしいと思っているのです。これも食育です。
  学校給食で日本食をしっかりと子供たちに味としてお箸の使い方などをしっかり身に着けてほしいという願いが学校給食で実を結んでいるというのは本当にうれしい事です。菅原自身は先割れスプーンの時代で止まっているのかなと思っていました。低成長の時代が続き、学校給食の予算は限られているもので、工夫しなかったらどうなってしまうのだろうという低予算のままだと思います。実際の予算は、小学校5,6年生ですと一週間当たり254円、中学校は300円という予算内で作っているのです。この価格の中で栄養士が工夫を凝らして作っています。レシピを見ていると一回の食事で使う野菜の種類は十数種類使用しています。そして、この野菜は各学校にいる栄養士自身が発注を行っているのです(足立区の場合)。近所の八百屋などに野菜を発注しています。その近所の八百屋と連絡を密にして、旬な野菜などを仕入れているのです。値段との相談もしながらある野菜が高騰したら別の野菜に変えるなどの工夫をし、献立を作った時に八百屋さんにも献立を渡してあらかじめ使用する野菜を示しておきます。
  更にその中で作られた給食の中でもさらに条件があります。それが一日に必要12の栄養素をバランスよく取れるという第一条件です。その次にカロリーが650カロリー前後、塩分が3g前後、そして値段の制限と続くのです。その中で、このような給食を作るのは奇跡的な話ではないかと思います。
  12栄養素は国の基準です。3大栄養素プラス、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、ビタミンA1,B1,B2,C、食物繊維で合計12の栄養素をしっかり摂っています。昔だったら5大栄養素で終わっているものが、今は12の栄養素となりより細やかな栄養となっているのです。塚原さんが食べていた時代の給食は、栄養価の高いものを提供するという時代であったものが、今の給食は摂取基準が決まっており、塩分にしても厳しい基準が設けられています。そういった中でいかに美味しい給食を作るかは、栄養士の力が大きいのです。
  インスタント食品などで塩分は5g~10gが簡単に摂れてしまいます。そういうものを毎日食べ続けている子供は、3gの塩分では塩気を感じないという落差ある傾向があります。それにも関わらず、子供たちが美味しいと感じられるのであれば、子供たちをいい方向に誘導しているのではないでしょうか。足立区の給食は天然だしをしっかり取り、手作りという事を心がけています。塩分を抑えられてうまみが出るという栄養士の工夫が詰め込まれているのです。

  給食担当係長とはどのような仕事なのでしょうか。
  平成21年4月からおいしい給食担当科というのができました。区長のマニフェストの中においしい給食と言う取り組みがあります。学校給食をおいしく残さず食べていただきたいという思いで、学校給食の取り組みをしているのです。学校給食というのは昔業者との癒着が強いのではないかと言われ、美味しいまずいは関係ないという時代がありました。子供は消費者だが、まだ発言力がないためというネガティブなイメージが強かったのです。しかし、この本のおかげでイメージが変わったのではないでしょうか。この『足立区の給食室』の本は7万7千部と好評をいただいており、まだまだ伸びています。これによって、日本の学校給食も熱意をもって取り組んでいるという事がわかります。足立区だけでなく他の地区も切磋琢磨しながら給食文化がよくなっていくのではないでしょうか。
  今年は他県からの視察が来ています。学校給食に光が当たり、おいしい給食を出していこうという事が定着していくという事は、子供たちにとっても幸せなことであり、健康に直結する事であり、薄味で和食志向、バランスのとれた栄養の中で偏食をしないで、好き嫌いなくおいしく楽しく食べられるという事は、学習能力の向上も見込まれます。これはいい子供を成長させる学校給食を出し始めたのは足立区が先頭となって活動しているのです。区長や皆さんのお仕事は大切な先導役でした。
  足立区は学校給食を通して子供たちに食を学んでいただきたいと思っています。自らの体にいいものはなにかというのを学んでそれを食べるような子供たちになってもらいたいという思いをもって活動しています。学校給食自体はどの地区でもおいしく作っているのは思っています。塚原さんは、足立区だけが特別おいしい給食を作っているわけではないと思います。栄養士たちが子供たちの笑顔を見ながら作る給食ですので、どの自治体でもおいしく作っているのではないかと思うと言います。
  こういった給食だと子供たちの笑顔があふれ和気あいあいとしたいわゆる陰湿ないじめとは縁遠くなるというイメージがわいてくるのです。そして、学校の先生も優しい先生となるような気がします。学校の先生には協力してもらっています。学校の先生たちは食べるのが早く、子供たちにしっかりと目を向け、楽しい給食の時間を作ってもらうよう努力してもらっているのです。
  給食時間は各学校によって決まっています。小学校ですと40~45分、中学校はもっと短く30~35分で、配膳から片付けまでを行っています。実質、食事をする時間は15~20分程度しかないのです。おいしい給食推進事業は、平成20年からスタートしています。その時に取ったアンケートと平成22年に取ったアンケートの中で、給食時間を楽しみにしているという子供たちの声は、小学校で97%、中学校では82%という数字を頂いています。おいしい給食事業というのは成功しているのではないかと思います。子供たちの無関心、無感度がはびこっている事を考えると画期的なことです。平成20年のアンケートで89%だったものが平成22年には97%とほぼ全員が楽しい給食と評価をしています。まさに学校長はじめ、先生方や栄養士の方々の協力があってのたまものです。そして、残債率が非常に少ないんです。アンケート調査の中では、好き嫌いをしないという数字は30~40%と低いが、この学校給食を通じて食育をしていきたいと思います。区長のマニフェストの中には残債率をゼロにしたいという思いがあります。学校給食自体が栄養バランスに優れていて、子供たちが食べない事には身につかないという思いで取り組んでいます。
  和食主体であり、本を見てみると今晩の献立にしたいと思うような料理です。そして、地方料理から多国籍な料理を提供しています。足立区は食育として給食を提供しています。世界の料理も入れつつ、地方の食文化や和食を提供する努力をしているのです。まさに栄養士の知恵と工夫です。しかし、スパイスの効きすぎということはありません。摂取基準があるので、子供たちが食べやすいように工夫されています。
  足立区のもう一つの取り組みは、地産地消です。足立区では小松菜を地産地消しています。小松菜はレタスやキュウリなどに比べると渋みのある野菜であり、普通の家庭でもどのようにしようしたらいいのか悩む野菜です。それを積極的に食べるというのは、長い目で見たら、小さい時に食べたものは大きくなってからも食べるようになるので、生活習慣帳になりにくい食生活を形成する取り組み成るのではないかと思います。その中で、足立区は肥満児の傾向がありますので、学校給食の食育を通じで自ら自分の体にいいものを食べて健康に留意してもらいたいです。
  食育の一環として、田植えの体験をしています。中学校になると新潟の魚沼で田植えの体験教室を行っています。この本の購入者は保護者だけではなく、ご高齢の方がよく購入されているという声があります。60代以上だったら和食中心だが料理の幅が広くなっており、ちょうどいい料理となっています。
  〇〇さんは、この本ができた時に感じたことは、おいしそうという思いと同時に自分でもできるのではないだろうかと感じたそうです。

 世界中で子供たちが学級崩壊、非行、薬物といろんな意味で子供が守られる環境が壊れている中で、学校給食という食べる所で愛情、栄養、美味しさがそろった子供たちの笑顔が引き出されるようなこの給食が日本中に勢いよく広がっていく事によって、日本の未来や10年後20年後と立派な大人になる子供たちが生まれるようなそんな予感がしてくる本です。