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緑慎也さん

今回のゲストは、フリーライターの緑慎也さんです。
「山中伸弥先生に、人生とiPS細胞について聞いてみた」講談社

 「山中伸弥先生に、人生とiPS細胞について聞いてみた」の本は緑慎也さんが山中先生の聞き手となって、まとめてくださった本です。現在、山中先生の周りには出版社が行列をなしている状態です。
 この本はノーベル賞受賞発表の2日後に発売されるというベストタイミングで出版されました。出版社としてはもっと早く出したかったと思うのですが、緑さんの原稿提出が遅れたためノーベル賞受賞の2日後というタイミングになりました。
もともと緑さんは評論家の方のスタッフをしていた関係で2,3回山中先生に取材をしたことがあるそうです。その後、緑さんが山中先生に取材をしたいと一昨年の4月に取材を申し込みました。しかし、震災の影響で4月の取材は延期され、去年の10月に行う事ができました。準備としては非常に長い期間がかかっています。
 取材回数は1回2時間と短く、質問したいことを聞く方法です。ただ、その前に評論家の方と一緒に6時間ほどの取材と山中先生の講演内容も含めて本にしてあります。山中先生の講演は非常にわかりやすくこの本にも山中先生が高校生向けに話した内容を入れてあります。そのため、内容も理解しやすく文章もわかりやすいこの本は初心者には読みやすい本となっているのです。
 山中先生の講演を聞いて感じたことは、山中先生のようにスタッフを大切にする方はなかなかいないのではないかという事です。今一緒に研究をしている方だけでなく、辞めた方に対しても貢献を示し、彼ら彼女らにも足を向けて眠れないと言っています。山中先生は、エリート育ちではなく町工場経営する家庭で育ちました。父親からは町工場を継ぐのではなく、勉強して医者になったらどうかと薦められるなどこの本には山中教授の生い立ちが書かれています。学生時代は勉強だけでなく、柔道やバンド活動などと充実した学生生活を送っていたそうです。
 山中先生が最初に行った基礎研究は、犬の血圧を測定する実験でした。血圧を上げる効果のある薬を注射することで、どのように血圧が変化するかを調べました。しかし、この研究では血圧が上がるのではなく血圧が下がってしまいます。山中先生はこの結果が非常に面白かったそうです。そして、なぜこのような結果になったのかを調べたものが博士論文になりました。一般的には仮説にならない研究だとやめてしてしまいますが、そこに疑問を持ってまとめあげるというのは立派な研究者に向いていると思います。
 何かにわくわくする事ができるのは研究者に一番大事なことでしょう。多くの研究者は誰かの研究の後追いをやっていますが、そうではなく新しい発見をすることができるのは素晴らしい事です。やっていることはささやかなことであってもやっている本人はわくわくすることができたのが山中教授の研究者としての原点であったと思います。本来自分がこれまでやってきた研究の繋がりから取捨選択をするのではなく、面白い方に振り向き追及していく事が面白いです。
 アメリカで研究をしていた山中先生ですが、子供が小学校入学の時にアメリカよりも日本で教育を受けさせたいという事でアメリカから日本に戻ってきました。研究環境としては、日本よりアメリカの方が研究費も入り優秀なアシスタントも参加し、学会発表するとその先生をめざして学生がやってくるという研究者にとっては素晴らしい環境を捨てて日本にやってきたのは家族思いの大きな決断だったと思います。

 iPS細胞とは細胞の初期化という言い方がわかりやすく、どんな細胞にも分化する細胞です。
 iPSという名前は山中先生が自分で命名しました。iが小文字なのはiPodのように世の中を変えるという意味があるそうです。なぜ山中先生はES細胞ではないあらゆる細胞に分化する可能性のある細胞を作ろうとしたのでしょうか。それにチャレンジする可能性についてどう思っていたのでしょうか。
 このことに関して山中先生は楽観的に考えていました。過去の研究データから原理的には可能であると思っていたのです。遺伝子を入れると細胞の運命を変えられるという研究はすでにできていたため、細胞を初期化することもできる。ただ、できるにはできるけど、いつできるかはわからないという状況でした。
 山中先生は日本に帰ってきてからは、アメリカで発見したNAT-1という初期化の段階で非常に大事な遺伝子を1つ抱き締めながらのスタートでした。山中先生の実験は大変な作業であり、まさに砂の中から砂金を見つけるようなものでした。研究により新たな発見があっても、周囲の反応は冷たいものです。この研究は当初は認められませんでした。次第に同じ実験をいろいろな方が行う事で、実験通りの結果になり認められてきたのです。また、ねつ造実験が出ている中での発表だったので、一定の評価を得る事は大変な事でした。しかし、その中で本当に信じてもらうために実験を重ねたのです。
 世界的な研究は世界中で研究が行われているので、一日一日が勝負になっているとよく聞きます。山中先生が科学雑誌に投稿した論文は、他の研究者とほぼ同着になることもありました。そして今では、世界中でこの研究を中心にいろいろな研究が行われています。これから競う事は、より癌化しない事や増殖させた時に初期化した通りの分化が起きているかどうかの質のいいものを選び出す必要があります。
 初期化する過程でも完全に初期化するものもあれば、完全ではないものもあります。今後の方向としては、あらゆるものに分化できるという事は、まず自分のiPS細胞を持っておくことになるのでしょうか。
 iPS細胞は増殖無限大のため、薬の副作用などは数多くの実験をすることができます。あとは、倫理的な問題が残ります。山中先生もES細胞は銃である。日本の場合は、持つこともできず持つためには許可が必要です。iPS細胞は包丁に似ていて、どこでも使う事ができ、料理に役立つが人を殺すこともできてしまう。EM細胞とは違う倫理的な問題があります。髪の毛などになりますと、個体としての人間は死んでしまってもそこからでも細胞を作ることができてしまう危険性があるのです。
 iPS細胞が実用化されるには、10年後を目指しています。ES細胞の研究の蓄積があるので、分化させるという事に関しては、進展が早くなっています。これはコンピュータのチップと一緒で、進化と共にどんどんと小さくなっていきます。iPS細胞も増殖させると設備も大きくなりお金もかかります。しかし、技術が進むと小さくなり効率が良くなれば、普及していくのではないでしょうか。培養技術から考えたら難しい事ではないと思います。これからの未来を担う発見に大いに期待します。