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永濱利廣さん

今回のゲストは、株式会社第一生命経済研究所 経済調査部主席エコノミストの永濱利廣さんです。
「男性不況」東洋経済

男性不況という事は、不況の中でもしわ寄せが来るのは男性という事です。
雇用の状況データ(失業率)をみると、日本の場合は女性よりも男性の失業率が高くなっています。そのため、男性の方が職に就きにくくなっているのです。
男性の失業率は4%後半になり、女性の失業率は4%前半です。男女では1%弱の差がついているのです。
これは私たちが普段生活をしている中では、はっきりと見えにくい事だと思います。
その原因として、大きく3つの要因が上げられます。
1つ目は、経済のグローバル化です。
具体的には日本のモノづくりが海外に生産拠点を移転する事で、男性中心の仕事である国内におけるブルーワーカーの職が無くなっています。
2つ目は、少子高齢化です。
少子高齢化が進むと人口減少していきます。人口減少が進むと建設投資が減ります。
すると建設労働者も減ります。これも男性中心の職場です。
一方で、少子高齢化は医療・介護とサービス業の雇用になります。これは女性中心の職場となります。そのため、女性の雇用が増えるのです。
3つ目は、女性の社会進出で一般企業が女性の管理職を増やしたりする働きが出ています。男性管理職を減らすことで、男性が厳しい状況に追いやられています。
以上の3点です。
今まで女性の社会進出で女性をライバル視していなかったものが、今となっては女性をライバル視する状況になっています。
特に、建設業界が冷え込んでいる状況で、男性の職場が積極的になくなってきた事です。
経済自体が良ければ、女性の社会進出と男性の雇用の拡大が両立します。しかし、日本の場合は、デフレにより経済が縮小しているため、女性の社会進出が増えるとそのしわ寄せとして、男性の雇用に波形してしまいます。
女性の社会進出の数だけ、男性の職が失われてきたという事です。
経済が発展していく中で、サービス経済化が進んでいくとサービス業の職はきめ細やかで心遣いが重要になります。
最近の状況をみると、家庭では奥さんが財布のひもを握っていると、女性に受けるものが売れる傾向があります。すると商品開発も女性受けのいいものを開発するため、女性の職が増える事になります。
女性の意見を反映した商品でないと、痒いところに手が届かなくて結果的に大量生産しても売れ残りが出てしまってはダメという事になります。

実は男性不況と言うのは、著者・永濱さんが造ったわけではなく、2009年にアメリカでマンセッションという言葉が出来てそれを日本語にしました。
アメリカも日本ほどではないにしろ経済の拠点が外へ出てしまっています。
そして、日本ほどではないが、少子高齢化が進んでいるという事で、日本よりもアメリカが先に男性不況が起きていました。
男性不況になってくると男女の力関係が大いに家庭の中で受けるような気がします。
これは男性のストレスになるような気がしますが、女性のストレスにもなったりするのでしょうか。
例えば、これだけ経済が厳しいと共働きの比率も高まってきます。その中で、共働きになると家事とかもある程度分担する必要があります。そこで、家事の相当な部分が奥さんに行ってしまうと、それはストレスになります。
新しい時代となり男性の所得が減ってきて、女性の所得が増え、二人で家庭を支えていかなければ、一人分の所得では賄えない時代にあるという事の認識を本人たちがしっかりと持っていると同時に、古い時代の人の価値観を捨てていかないと離婚や病気の原因になってしまいます。
足元を見てみるとその辺りは変わりつつあると考えています。
最近は、育男として男性が子供の育児に相当関与するようになっているということは、家族の関係性は共働きの中で奥さんが稼いで貰い旦那も子育てを手伝わなければならないという環境になってきていると思います。
それは男性として何歳ぐらいからその傾向を受け入れられるようになっているのでしょうか。
永濱さんが大学非常勤講師を行う中で、学生たちと話をすると大学1年生から就職のことを意識しているそうです。そして、就職に役立つことを選んでいくため、大いに羽目を外す機会が減っていることから、真面目なんだけど小さくまとまってしまっている傾向があります。
これは社会全体からみたら問題です。
いろいろ意見が出てこなくなったり、同じような視点だと問題が見えずらくなってしまいます。誰かが気が付いて他の人が気が付かないことがビジネスのチャンスになります。
なぜそのようになってしまったかというと、失われた20年という不況が続いている事が上げられます。
経済的に余裕があれば、それだけ活動の幅が広がります。
永濱さんが主席エコノミストとして活躍していますが、子供の頃はどのような感じだったのでしょうか。
就職の時には、就職氷河期の端でそこまで厳しく、勉強をそこそこやりながらサークル活動をやったり、多くのアルバイトをやりました。
いろんなアルバイトの経験が役に立っています。エコノミストのひとつの仕事として、難しい話を端的に伝えるかという事や営業サポートの時に人と人が接する機会を経験していたことは大きいですね。
採用に携わる仕事を行った事で、実際面接する側から見ると話している内容よりも雰囲気や説得力を見ているので、勉強ばかりやっているよりも幅広い経験をする方が就職活動に役立つと思います。
委縮する男性、元気な女性と言うタイトルがあります。女性に職場が開かれてきた、給料格差がなくなってきたという事でしょうか。
一時期前であれば、男性の方が給料でも優位性がありました。
そのためデートなどでも男性が払うのが当たり前でした。そういう面で男性の方も強気に接することができたと思います。
しかし、最近では男性の稼ぐ力が下がって、女性の稼ぐ力が上がってきたので、心理的に男性が優位に立てないという部分が、積極的にアプローチできなかったりという所につながり、離婚率が高くなったり、少子化に結びついていると思います。

共働きの比率が高まっている就職氷河期で就職が厳しい世代になってからその傾向が見られます。
30代以下の夫婦であれば受け入れる傾向となっています。
去年あたりの就職率はどうでしょうか。
実は、一時期前までは男性女性の就職率は、男性の方がよかったです。2000年代に入ってから男女の就職率の差は相当縮小しています。
年によっては女性の就職率の方が高いことがあります。
大学の先生に伺うと女性はまじめで何事にもコツコツ取組み姿勢があり、学問の分野で考えると女性の方が優秀な学生が多いと言います。
女性の稼ぐ力がついてきたにも関わらず、専業主婦願望の学生も多くいます。男性を養ってあげるぐらい強い女性が出てくれば変わると思います。しかし、女性は男性に養ってもらいたいという考えがあるみたいで、結婚が進まない状況にもあります。
結婚しない人も増えてきていますが、それは男性の所得が下がってきているという事もあります。
実際、内閣府の調査でみると、年収300万円以上以下で彼女のいる率、結婚の率が大きく変わってきます。
これは男性の自信によるものと女性の求める基準によるものと両方あります。
ただ、どちらかというと女性の方が男性に経済力を求める傾向があります。
日本の場合はアメリカに比べると社会保障の将来不安が非常に高いですよね。アメリカは未だにアメリカンドリームがある自由な経済なので、日本の方が閉塞感が強いです。
300万円が多いか少ないかは常識の問題になります。
若年の人の所得が少ないというのは、日本の企業が正社員を解雇しにくい法律の一方、年配の方々が引退しないという現状があります。
この規制を緩める事が一つの原因になります。
ただ、解雇されることに対する不安が大きくなると思います。
今の大企業の採用は、一度正社員を取ると解雇しにくいため慎重になります。
本当はもう少し採用する余裕があっても、取らないことがあります。
そうすることで、日本全体の雇用がもう少し上がるのではないかと思います。
終身雇用がよいのかどうかは、わからないのですが、終身雇用の安定の中で結婚生活を維持すると思ってきたので、解雇しやすくなると不安になりますね。
解雇しやすいという事は、しっかり働かないと解雇されるという事で働くことに対する意欲が上がると思います。
出世したくないという若者も減るのではないでしょうか。
10年前と今では状況がガラッとからってきました。
これから予想しなかった経済状況が襲ってくる可能性も高いですよね。
男性不況の傾向は今後どのように変化するのでしょうか。
経済が発展し経済がサービス化していき、日本は欧米諸国に比べ女性の社会進出は遅れているため、当面はこの状況が続くと思います。
女性の社会進出の機会が増える事は望ましい事です。
ただ、問題として、日本の経済停滞が進んでいるので、女性の社会進出が男性雇用を圧迫しているのです。
男性不況が広がると、家庭での生活格差が広がると本には書かれています。
男女の賃金格差が縮まると、世帯間の賃金格差が広がっていくのでしょうか。
一昔前は、男性は総合職で女性は一般職という区分けが一般的でした。
総合職の中でも収入の低い男性も一般職の収入の高い女性とカップルになれる可能性が高くありました。
しかし、現在では、女性の総合職への進出により、収入の高い女性と収入の高い男性がカップルになる可能性が多くあります。
そのため共働きですとこの世帯の収入は多くなります。
一方で、男性が非正社員の率が高まってきますから、非正社員同士のカップルが生まれます。このカップルの場合は世帯収入が低くなり、世帯間での収入格差が広がります。
男女の価値観が近いとそれなりに収入の近い男女がカップルになりやすいという事です。
昔は、お見合いがありましたが、今はお見合いで結婚する人は少なくなっています。
今の所得をみると、親の代が稼いだ額よりも稼げない時代になってきました。
お金に関していうと、たくさんお金を持っているお年寄りから相続税を増税する代わりに所得税を少なくするなどして、若年の雇用環境、所得環境を良くする方法があるのではないでしょうか。
男性の所得の低い人と女性の所得の高い人の組み合わせは、日本では高くありません。
しかし、欧米諸国では、この組み合わせの比率は日本よりも高く、男性の専業主夫がでてきています。日本でも夫の専業主夫の割合が増えてくるでしょう。
この感覚が普通になっていかないと男性不況の打破にはならないと思います。
教育費にかける金額が日本は多いように思いますが、それなりの教育という事を考えると費用も掛かってきます。
ただ、ほとんどの問題は景気が良くなれば緩和されるとすると、今の日本はマクロ経済の対策が欧米諸国に比べると見劣りしている。そこを欧米並みに行えば、若年層の雇用など増えてくると問題は解消の方向に向かうでしょう。
マクロ経済的に見て日本の問題点は、世界中どこを見渡しても日本のようにデフレが続いている国はありません。
物の値段が下がり続けているという事は、お金の価値が上がり続けていることになります。
お金の価値を下げる政策をするべきです。それは金融政策です。
そこが非常に弱くなっています。金融政策をアメリカ、ヨーロッパ並みに行うべきであり、そして企業が活動しやすい環境を整えるべきです。そのためには法人税を下げたり、経済連携協定を積極的に進めていく政策を行う必要があります。
アメリカが金融緩和でお金を費やしたところは、住宅企業のバブルが崩壊して景気がわくるなったので、住宅企業担保証券を買いテコ入れをしました。
日本で今市場がおかしくなっているところは、恐らく株式市場です。日本の株式市場は今30年前の値段ですが、GDPは30年前のおよそ6割上がっています。株価が上がっていもいいはずなのに、期待がない分株が売られすぎているため、日銀がお金を刷って間接的にでも株を買い支えるなどを行っていけば、もう少し経済がよくなると思います。
公共投資は老朽化した箇所に有益な投資をすることで理解はできます。住宅投資は、環境問題に関連した投資をすることです。
過去、建築法を改正することで、建設業界に大打撃があった事がありましたので、そのような事はしてはいけないです。
永濱さんが個人的に懸念していることは、農業の分野です。
今、日本に置ける農業に従事する方の平均年齢は60歳を超えています。TPPに参加しないで農業を守っています。しかし、若い層が参加していないので、農業がダメになってしまいます。
ということは、もっと経済連携協議を積極的に行って、日本に品質の高いものが多いのでもっと輸出を増やすことにより成長産業にしていく必要があると思います。
実際にヨーロッパでは失業保険を貰うためには職業訓練を行わなければならず、積極的雇用政策が行われています。
今までの政策は、特別保証で誰にでもお金をばらまく政策でしたので、発展しませんでした。
例えばリタイアした高齢者だが体の健康な方を使って行う仕事も出てきています。
親の介護でなかなか働けない方もいらっしゃいます。そのために介護施設にお金を使う必要があります。