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鍛原多恵子さん

今回のゲストは、翻訳家の鍛原多恵子さんです。
「脳はすすんでだまされたがる」角川書店

「脳はすすんでだまされたがる」は非常に科学的な本です。科学の本の翻訳は量が多いため、読み切れなかったりします。
この本は興味を持ったまま読む事が出来る本でした。
翻訳する側としては、認知科学の事を書いているのですが、マジックを話のとっかかりとしているため楽しみながら翻訳することができました。
脳はぬけぬけと嘘をつく、脳は進んで騙されたがるというタイトルが興味をそそります。
原作のタイトルは、心の手品というです。
マジックは私たちの錯覚であり、その植え付けが上手であるとしています。
人間の陥りやすい錯覚がどこで起きているのか、なぜ起きているのかというのを脳科学的に証明しながら、私たちの脳が錯覚に弱い事を解き明かしています。
見たつもり聞いたつもりという落とし穴をそれぞれのマジックを基に解説していくのは、認知科学という脳科学者が意欲的に取り組むのは難しい事です。
脳科学はこの20年くらいに発達した学問です。
脳科学、認知科学と言う言葉が独り歩きしている割には科学的な実験がしっかりと行われている事を見るのは意外と少ないですよね。
錯覚と言う高度なテクニックについては研究しにくいし、どうやって証明するのか非常に難しいと思います。
それを行っていくのは、どうしたら実証できるのかというトリックの種明かしを説明に終わっている部分だけでも面白いですね。
脳の残像を効果的に使ったマジックがありました。
見えていると思ってしまう事があり、それが驚きに変わります。
色の効果を利用する事で驚きを強く出すことです。
マジックの中では、音と光を駆使して私たちが驚くことで、脳の中でドーパミンが出されるということです。
次にはスプーン曲げの秘密があります。
これは本来、人間が持っている潜在能力の秘密かなとも思ったのですが、この本ではそうではないと言っています。
集団でスプーンを曲げるパフォーマンスをテレビでやっていました。
それに関しては、人間の潜在意識を利用して、人間の想念がそのように思うとスプーンを曲げる力が出るという事もあるのではないかと思いました。
その場合はいわゆる集団催眠に近い方法なのかもしれません。
この場合は、タネのあるマジックとしての方法を行っています。
曲がっているように見せる錯覚ですね。
マジシャンは人が誤解するポイントをよく知っています。
私たちは目で見たものを脳に入れる情報を自ら選択して入れています。
見ているつもりでも見ていない事が多くあります。
認知したものに関して脳に届けている。
特定の情報だけを取り入れているという伝達経路をもっていると思っていました。
脳が見たいと思っているものに関して見ているという仕組みです。
バスケットボールのパスを数える実験が書かれていました。
被験者にパスの回数を数えてくださいと言うと、途中で出てきたゴリラに全く気付かなかったという人がほとんどです。
これは自分がフォーカスしているものしか見ていないという事です。
また、このような実験を考え付くのはアメリカならではという感じもしました。
とてもユニークで面白い方法で脳の仕組みを実験しています。

脳はとても疲れやすくて飽きやすいという仕組みも説明されています。
これもマジックではよく使われているテクニックのようですね。
慣れが出てくると疲れてくるという仕組みを知っていると日常生活でも効果的ですよね。
同じ勉強を毎日やっていると飽きてしまうので、あまり長く勉強しないで短い時間で集中して行い、休憩してまた繰り返すといいのではないでしょうか。
椅子に座っても最初は椅子の感触があっても、だんだんと気づかなくなってくることがあります。
飲み物、食べ物も一口目は美味しいけど、二口目から段々と美味しさが薄まってくるという事があります。
マジックではわざと飽きさせて、驚かせるというトリックを使っています。
わざと単純なことで飽きさせる方法があります。
そのギャップが大きいほどマジックの驚きが大きくなります。
この本で面白いと思ったところは、自閉症の人は騙されないというのがありました。
自閉症の人はどこか一つにフォーカスしてしまう傾向がないため、逆手にとって自閉症が治ったかどうかをマジックに騙されるかどうかという事が上げられていました。
科学に応用できるという考えが著者の科学者らしいところでした。
また、マルチタスクという事についてです。
そのように一度に何度もこなしているつもりであっても、マルチタスクというのは無理なことであり、検証してみるといい結果にはなっていないという事がありました。
総合すると時間がかかっていたり、ミスがあったりするという事がわかりました。
集中力のありすぎる人は人を見ていないという事があります。
人に対する配慮とか、その人に対しての集中力はゼロだったりということがあります。
日常生活では、洋服を買うときに販売員の人の事を見ていません。
コミュニケーションをとっているつもりでも、あとでどのような人が接客してくれたかはわかりません。
人間の心理は主観の塊であり、自分に有利な過去を作り出す技術があるという事があります。
そして、口に出して言うとその人にとっては真実になってしまいます。
これは犯罪でも間違って刷り込まれてしまっていることも多くあります。
レイプ犯として捕まった人は、その犯行時間にはテレビに出演していたという事がありました。
証言した人は、テレビでその人を見たのを記憶していて、犯人であると勘違いしてしまったというのがあります。
彼は、一旦捕まってしまうという事がありました。
記憶と言うのは曖昧で、過去に対する記憶については、自分が幸せになるか不幸になるかについて重要ではないでしょうか。
真実と思っていた記憶が実は嘘ではあると思い込みがあります。
私たちの記憶は曖昧という事が分かります。
記憶がいかに重要でないかという事を理解する必要があると思いました。
錯覚がこの本のテーマですけれども、私たちは脳の中にある真実に対して、もう一度考えてふるいにかけてみて脳の中に住みついている幽霊かもしれないので、ゴーストバスターする必要を感じさせてくれますよね。