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建築家
安藤忠雄さん

今回のゲストは世界的な建築家の安藤忠雄さんです。建築界のカリスマと呼ばれる安藤さんは、これまでの人生と建築を語った初の自伝「建築家・安藤忠雄」を新潮社から出版されました。
若い人達は自分を表現するのが下手
人間同士が対話すると息づかいも聞こえてくる
菅原:
そういう意味では自分で独学でがんばられたハングリー精神のような情熱というものが、今度は人を育てる。自分のアトリエの中の若い人たちに対しても、いつも真剣勝負で。今、若い方々25人ですか。一人一人に対して一生懸命育てられてるんですか。
安藤:
私が親分ですから、リーダーの仕事はまず仕事を社会から探してくる。そしてアウトラインをみんなで打ち合わせながら作る。その次は若く入ってきたやつの教育にすべてをかけなければいけない。なぜならば、我々が楽をしようと思えば、若い人の力が上がっていかん。私の事務所に今も3人か4人、アルバイトが来てるわけですが、その人達に自分の考え方を必ずスタッフに言えと。スタッフは必ずアルバイトの人たちにこういう考えでやってるということを話をすると。お互いにしっかりと話し合わなければならない。

若い人たちね、携帯電話ができてから自分を表現するのが下手ですね。自分を表現しなかったら相手はそう簡単にわかりませんので、もっとしゃべれと。もっと話をしろと。そして、自分をちゃんとこう考えてるんだということを言えと。だいたいはじめにアルバイトで来た人、半月くらいそればっかり言いますよ。自分がどう考えているかと言うことを言えと。責任のある自分と責任のある相手とが話し合って前に進みましょうと。
菅原:
今、そういう意味では自分で直接話すより、隣の人にメール送ったりするような癖がついてて、自己表現どころか「それで人間なの?」みたいな人が多くなっていますよね。だから、それを教育するところから。それとやっぱり、実際の経験値というのが昔と比べると外で遊んでなかったり、ケンカしてなかったり、木登りして落ちて怪我してないから、その実体験のないところから建築するというのはなかなか大変な気がしますけど。
安藤:
大変ですね。やっぱり、体験してないでしょ。小学校、幼稚園から学習塾、英語塾、ピアノ塾と。親が決めたコースを歩いていくと。子供同士で遊ぶ時間、ちょっと泳ぎにいこうかと。ちょっとトンボ取りに行こうかと。そういう時間もないと。その中で自分が体験するということがほとんどなくて、行くのは塾とまた違う塾と。それで人間としての成長はないですね。そのまま大きくなって今度はコンピューターが待ってますから、携帯電話が待っていて、友達同士も携帯でしか話をしないと。

携帯で話をするということは割と簡単なんですよね。人間同士が対話すると息づかいも聞こえてくる。周囲もあると。なかなか難しいのでね、私の事務所、27、8人。30人弱いるわけですけども、携帯電話の世代ですから、全員昼食一人で出て行きますよ。バラバラにね。うちの事務所の近所に30軒も店あるのかな。と思うんです。なんで一緒にいて、「いや、食事の時まで横におじさんはいりません」と。みんなコンピューター持って行くわけね。食事しながらコンピューター。病気ですね。こういう人たちが作る建築はだめでしょう多分。
菅原:
と思うんですけどね。
安藤:
人間に対する思いと息遣いがないですから。

菅原:
もっとできれば、過疎になったところに孤独で住まないでね、もうちょっと楽しく住み替えをする。そういうことが政策として前に出てきてもいいと思いますよね。

安藤忠雄

昭和16年大阪生まれ。独学で建築を学び、昭和44年に安藤忠雄建築研究所を設立。昭和54年日本建築学 会賞、昭和60年アルヴァ・アアルト賞、平成元年度フランス建築アカデミー大賞(ゴールドメダル)など。瀬戸内海の破壊された自然を回復させるため中坊公平氏と共に「瀬戸内オリーブ基金」を平成12年 に設立。アメリカイェール、コロンビア、ハーバード大学客員教授歴任。平成9年から東京大学教授、 現在、名誉教授。