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建築家
安藤忠雄さん

今回のゲストは世界的な建築家の安藤忠雄さんです。建築界のカリスマと呼ばれる安藤さんは、これまでの人生と建築を語った初の自伝「建築家・安藤忠雄」を新潮社から出版されました。
世界中の人が募金に参加している
「海の森」プロジェクト
菅原:
特に私は東京を見ていても思うんですけども、昔よりすごくきれいになっているんですよね。
安藤:
きれいですよね。
菅原:
前はね、川も臭かったんですよ。緑も今よりなくて。それで観光に行くというと車でみんながいっしょになってね、5時間も6時間もクタクタになって出かけたんだけど、最近は近場で自転車に乗ってけっこう美しいところだとか、そういう水族館が近くにあったりとかね、本当に生きるということの感覚が目線が近くに、大事にしようって楽しくなってきましたよね。
安藤:
東京は江戸時代から大名庭園がたくさんあって、一部後楽園だとか残ってますよね。そういう残っているものとつないでいくといいなと。私、東京オリンピックと、10年後の東京というものを考えているんですけど、その中で電柱を全部地中化すると。
菅原:
それやっていただきたいですよ。
安藤:
これはね、あと7、8年でできる。
菅原:
え?東京?
安藤:
うん。全部。
菅原:
うわぁ、うれしい。
安藤:
もうやりはじめてますけども。そこに街路樹を植えますよね。街路樹と大名式庭園とか大きな緑、例えば皇居と、明治神宮とか。全部つながっていくんです。そういうことを考えたらおそらく東京が世界で一番きれいだと思いますね。民族の民度も高い、ごみも少ない。前は多かったけど、少なくなりました。そういう意味では清潔で美しくなる東京というのは10年後はかなり魅力的になるのではないかと思ってます。

菅原:
安藤先生が音頭をとって、木を植えるという。東京に海の森プロジェクトというのを作っていただいて、一生懸命木を植えることを熱心に熱心に大阪じゃなくて東京でやっていただいて申し訳ないような気がするんですけど、これはすごく東京人にとってありがたいことですよね。
安藤:
これはちょうどお台場の向こうにね、ごみの山、産業廃棄物が100haと30万坪でゴルフ場18ホール分なんです。これにみんなで埋めていこうと。1000円募金で50万人集めようということで、一年前からやりはじめて、それがね不思議なことで今26万人くらい集まってます。
菅原:
私も入ってます。
安藤:
あぁ、ありがとうございます。それでみんな1000円出していただいた人が50万人になったら本を作ろうとしてるんですね。今、日本だけじゃなく、アルゼンチンとかフランスとかイタリアとかアメリカとか韓国とか、台湾とかいろんな国の人達も出してくれてるんですね。

菅原:
よその国の人が?出してくれるんですか。
安藤:
講演会行くたびに「海の森は地球の森だから、地球のことを考えるということに賛同する人は出してください」と言うとね、だいたい3割の人は出しますよ。それでやってるんですが、その海の森にこの間も子供達3000人連れていっしょに植えに行ったんですけども、この近隣じゃ、海の森からごみを出さない運動、そして海の森の大きさっていうのは明治神宮って同じ大きさなんです。皇居も同じなんですけど、宇宙飛行士の毛利さんによると、宇宙から認識できるのは万里の長城だけらしいんですよ。かろうじて、明治神宮が認識できるから、海の森も認識できるんだと。平成の時代に宇宙から認識できる森をみんなで作ろうとこうしてやってるんですけど、これはね割と一般化してますね。

菅原:
ありがたいことに、植樹というのは100年後を見据える仕事ですよね。でも、日本の土はすごく土壌が豊かだから10年も経つと意外と木が数メートル伸びていくとても恵まれた土壌ですよね。だから、今の海の森も10年たたないうちに茂ってきて、お台場もそうでしたけど、10年くらい前はハゲ坊主でしたよね。
安藤:
だけど、今度の海の森はなんにもありませんからね。森だけですからね。だから、こういうちょっとばかげたこと。東京都民だけでなく、日本中の人達、外国の人達も含めてみんなで1000円募金してやるといいなと。

菅原:
すごく夢とロマンなんだけど、半分まで来てるってことがまたすごいことですよね。
安藤:
よくいきましたね。だけど、これから難しいと思うんですけども、私、元気な間やり続けるんだと言ってやってますが、日本人の民族の民度の高さは自然とともに生きてきたから、自然に対する感受性が高い。そして、自然を守ろうという気持ちが大きいです。といいますのも、明治の後半になりますとエネルギーがいりますので、この周辺の土地の緑は全部伐採したんですね。
菅原:
一回なくなったんですか。
安藤:
なくなったんです。いっぺん、それをエネルギーにしたんです。木炭にしたんですね。今度はそれを今、また植林して周辺緑じゃないですか。この民族は緑に対する、自然に対する感性からいうと世界一です。
菅原:
この世界一とおっしゃった日本人の民度というのは、自然と共存して生きてきた長い歴史があるから一時高度成長で、いろいろ乱開発したり、めちゃくちゃ町おこしででたらめやったことはあるけども、反省すればまた将来明るい展望を持ってる一生懸命がんばる一生懸命緑を植える、ごみを出さない、そういう部分も持ってるという意味ではすごいんですか。
安藤:
すごいですよ。遺伝子の中にね命に対する愛情、自然に対する愛情、これ大事。そのことが次の時代の子供達のその次の子供達に伝わっていくと、アジアの世界の日本の国になるだろうと。日本は自然に対する愛情が深いぞということになるかと思います。
菅原:
よく緑地っていうとね、海外の植林のためにすごくお金出す人いるでしょ。だけど、足下の日本のことは考えてない人が多くてね、逆にチリからお金を持ってきたって聞いてびっくりしたんですよ。チリ行って植える人は多いかもしれないけど、アマゾンの熱帯雨林を守ろうというのはあるんだけど、そういうところから東京、日本、いいじゃないですか。逆で。
安藤:
コロンビアの人もいますね、チリもアルゼンチンも出してもらってますよ。せめて地球の中の国の1/2くらいの国の人から出してほしいと思ってますね。
菅原:
すごいありがたいことですね。

安藤忠雄

昭和16年大阪生まれ。独学で建築を学び、昭和44年に安藤忠雄建築研究所を設立。昭和54年日本建築学 会賞、昭和60年アルヴァ・アアルト賞、平成元年度フランス建築アカデミー大賞(ゴールドメダル)など。瀬戸内海の破壊された自然を回復させるため中坊公平氏と共に「瀬戸内オリーブ基金」を平成12年 に設立。アメリカイェール、コロンビア、ハーバード大学客員教授歴任。平成9年から東京大学教授、 現在、名誉教授。